動物の放射線治療

 久しぶりにお知らせさせてもらいます、獣医師の浜洲です。先日(もう2週間ほど経ちますが)大学時代にお世話になった先生の退官パーティーに出席するため、北海道に行ってきました。勉強の苦手な僕に研究の方法をご指導いただいたり、大学院への進学のためにご尽力してくださったりと、とても博識でありながら人柄も優しく尊敬している先生です。幅広い世代の卒業生が集まっており貴重な時間を過ごすことができました。

hokkaido退官式

 僕が大学、大学院時代に研究していた内容というのは『がんに対する放射線治療の効果を高める』ためのものでした。近年では動物も家族の一員として大事に飼われる方が多く、平均寿命がどんどん伸びています。それとともにがんは人だけでなく動物でも死因の上位になってきました。がんは手術で全部きれいにとってしまえれば一番いいのですが、それができない場合や手術だけでは目に見えていないがんが残ってしまうこともあります。そこで次なる治療として抗がん剤を使ったり放射線をあてたりする方法がとられるのです。

 放射線は細胞のDNAに傷をつけてしまうエネルギー波のようなものですが、細胞の種類や状態によって放射線に対する弱さが違います。一般的にはがん細胞は正常な細胞よりも放射線に弱いので、放射線をあてた時に正常な細胞よりもがん細胞がたくさんやっつけられるのです。ただやっぱり正常な細胞も死んでしまいますし生き残るがん細胞もいるので、いろんな角度からあててみたり、特殊な薬をいっしょに使ってみたりと研究が進められているのです。人の医療では『がんを切らずに治す!』とまで言われるようになってきています。すべてのがんがそうできれば本当にすごいことですね。放射線治療

 それで気になるのはそもそも動物病院で放射線治療ってできるの?というところなのです。実情としては現在放射線治療施設を備えた病院というのは、日本全体でもかなり限られています。低エネルギー型の放射線装置でも個人の病院で備えるには数千万円の費用がかかりますし、人でも使われているタイプの高エネルギー型の放射線装置を備えている施設となると、数億円の費用と特別な資格が必要でして大学病院か関東の大きな二次診療施設だけなのです。

 とくに福岡は低エネルギー型の放射線装置すらなく、放射線治療をやりたくてもできなかったのです。しかし数年前から福岡でも放射線治療をやりたいという先生方はいらっしゃって、少しずつ放射線治療ができるようになりつつあります。こうして動物病院でも少しずつ放射線治療が広まって、動物達のがん治療が進んで行くといいですね。僕らもそのお手伝いができるようがんばりたいと思います。

 前に学会でやつれた姿の写真を載せたところ、いろんな方が心配してくださいました。慣れないスーツで勉強するせいか学会の時はいつも疲れてしまいますが、普段は元気に働いております。お気遣いどうもありがとうございました。

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