腫瘍診断と生検

獣医師の佐藤です。東京で行われました獣医がん学会に参加してきました。最近の動物腫瘍科で活発な話題は動注療法といって、腫瘍に対して動脈から直接高濃度の抗がん剤を暴露させる治療法をよく聞くようになりました。今回はそれだけではなく、がん患者さんの痛みを和らげるがん性疼痛の管理などのトピックが登場していました。年に数回ではありますが、こうして腫瘍治療の最前線をアップデートできるのは大きな収穫です。

私佐藤は関東の二次診療施設の腫瘍科にいました。町の獣医さんは基本的に皮膚病や眼科、骨折、腫瘍と何でも診察するのですが、二次診療施設では専門科に分かれていて、私は朝から晩まで腫瘍を中心に診察していました。今日は少し、その頃のお話をしてみようと思います。


腫瘍科にやって来る動物で一番多いのは、原因不明の腫瘤が存在するケース。
「体の表面にできものがある」
「以前からあったできものが大きくなってきた」
これらは外から触って分かるので、飼い主様が気づかれてからかかりつけの病院に行かれるパターンが多いかと思います。

ただ、
「X線写真を撮ったら、原因不明の何かの影が映っている」
「お腹の超音波画像検査で腫瘤が見つかった」
「体中のリンパ節があちこち腫れている」
など、かかりつけの先生の診察や検査を受けて初めて分かることをきっかけに、
「癌かも?」
と、二次診療施設で詳しく調べるケースが圧倒的に多くありました。

これらの場合、腫瘍科ではまず「この患者さんはがんなのか、がんでないのか」を正確に診断するところから始まります。

ここを白黒はっきり付けるのが非常に大切なところで、詳しく調べて見た結果「腫瘍ではない!」と診断できることがあります。やはり「悪い癌かもしれないし、でも、そうじゃないかもしれないし」とどちらかはっきりしない状況でモヤモヤした日々を過ごすのは飼い主様にとってものすごく苦痛な時間です。なので、腫瘍でないことが分かると、たいていの飼い主様は気分スッキリ、元気になってお帰りになります。

対して、やはり腫瘍と確定診断に至ってしまう患者さんもいます。ただ一概に腫瘍と言っても、それが良性なのか悪性なのか、どこの部分にできた何の腫瘍なのかによって、

挙動(ゆっくり成長するのか、あっという間に全身に転位してしまうのか)
予後(平均的にはあとどれくらい寿命があるのか、今後どうなってしまうのか)
治療法(手術で治すのか、抗癌剤が効くのか、放射線が有効なのか)

これらが全く変わってきます。

それゆえに腫瘍科の診療では診断の部分に結構な力を注ぐのですが、その中でも最も重要になってくるのが生検です。生検とは病変、たとえば本来存在しないはずのできもの腫瘤など、腫瘍の疑いのある部分から細胞や組織の一部を取ってくる検査です。注射針1本で細胞を採取する針生検であったり、全身麻酔下でメスで切開してから組織を切り取ってくる、ちょっとした手術のような切除生検であったり、何らかの手段で細胞や組織を取ってくる必要があります。

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採取した細胞や組織はすぐに病院内の顕微鏡で観察してみるのですが、最終的には専門の病理の先生に診断してもらいます。ここまでのプロセスを経て、はじめてその患者さんが「がんなのか、がんではないのか」をはっきりさせることができるのです。

犬も猫も長生きする子が増えてきましたが、それと同時に人間と一緒で死因の大部分をがんや心臓病が占めるようになりました。最近の報告では、10歳以上の犬の死因の45%が腫瘍性疾患と言われています。もちろんがんにならずに健康的に生きるのが一番良いのですが、腫瘍はある日突然に、誰にでもやって来るもの。基本的には早期診断早期治療でいきたいものです。

まずは定期的な健康診断で日頃のチェックを、そして少しでも怪しいなと感じるときには詳しく調べてみましょう。

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