麻酔前検査の重要性

事前にリスクを回避できることがあります

全身麻酔にリスクが伴うのは避けられません。ただ、そのリスクはできる限り下げることが可能です。たとえば、私たちは交差点を渡るとき、左右を確認して車が来ていないことを確認してから渡りますよね。もしこのとき、目をつぶって交差点に飛び出したらどうでしょうか? 運が良ければ何事もなく向こう側へ渡り切ることができるでしょう。でも、もし偶然、そのタイミングで車が来ていたらどうでしょうか。「そのとき偶然、運が悪かっただけ」で済ませられることでしょうか? 最悪、命を落とすような大事故につながりかねません。事前にきちんと左右を見て、車が来ていないことを確認すればそのリスクの大部分は回避できたのではないでしょうか?

麻酔をかける前に全身の確認をしましょう

先の例で言えば、事前に適切な検査をしないでいきなり麻酔薬を投与するというのは目をつぶって交差点に飛び出す行為に近いと言えます。麻酔薬を入れたら心臓が止まってしまったとか、手術は終わったけれど麻酔から覚めなかった、そんなことになってしまったら一体何のために麻酔をかけたのでしょう。

生きものの体は複雑なもので、外から見る限りはまったく健康そうに見えていても、検査をすることで初めて分かることがたくさんあります。実際に2007年の報告では、7歳以上の犬101頭に麻酔前に検査を行ったところ、30頭に新たな疾患が発見され、さらに13頭は麻酔中止となったとされています。

もし本来麻酔中止とすべき動物に、適切な検査をせずに麻酔をかけてしまった場合、そのリスクの高さは大変なものであることは容易に想像されます。

当院の麻酔前検査

当院では全身麻酔をかける前に血液検査、胸部のX線検査、心電図検査を実施しています。もちろん動物の状態や性格、これから行う手術や処置の内容によって変更はありますが、これらを事前に適切に実施することで麻酔のリスクを可能な限り少なくします。

血液検査では内臓器の評価をします。具体的には肝臓、腎臓、タンパク、電解質バランス、貧血の有無などを調べます。たとえば、実際に麻酔をかけるには色々な薬剤を使用します。その中には肝臓で代謝する薬や腎臓から排泄する薬があります。これら内臓器の数値を確認することで、きちんと薬剤を代謝排泄できるかを見ていきます。

胸のX線検査では心臓や呼吸器の評価をします。心臓が動くこと(循環)と息をする(換気)というのは動物が生きる上では当たり前のことなのですが、麻酔中にはその当たり前のことができなくなることがあるからです。実際には麻酔薬はその種類により心拍や血圧を下げたり、呼吸にブレーキをかける効果があります。それら麻酔薬に体が十分に耐えられるかを見ておく必要があります。

心電図検査では心臓に関する様々な情報を得ることができるのですが、最大の目的は不整脈の検出・診断です。もし不整脈があったとしても、ごく軽度で特に問題のないレベルなのか、抗不整脈薬により乗り越えられるタイプの不整脈なのか、それとも命に関わる重篤な不整脈で麻酔をかけると危ないタイプのものなのかを調べることができます。

これらの検査を通して、実際に麻酔をかける前に麻酔リスクが十分に低いことを確認し、また麻酔中にはその患者さんにはどういったことを注意するべきなのかという作戦を立てます。安全に麻酔にかかってもらって、当たり前のように覚めてもらうために、私たちは全身麻酔の前に麻酔前検査を行っています。

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